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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)630号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人林喜平の上告理由第一点について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠に照らして是認できるし、それに基づく原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解せず、独自の見解に立つて、適法になされた原審の事実認定、それに基づく正当な判断を非難するに帰し、採用することができない。

同第二点について。

原判決に所論の違法の存しないことは、原判決を通読すれば明らかである。論旨は、原判決を正解せず、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

同第三点について。

実体法上数個の建物であつても、登記手続上は一個の建物として適法に合併登記手続をすることができることは、不動産登記法上明らかである。原判決の所論一個の建物なる判示は、登記法上の右の意味における一個の建物をさすものであることは原判決を通読して明らかであるし、かかる判示が上告人の主張にそうものであることも本件記録に徴して認めることができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、原判決を正解せず、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

同第四点について。

次の事実は原審の適法に確定するところである。本件土地は、もと富山県砺波郡福光町字味噌屋町六七一六番の一、宅地二五坪五合なる一筆の土地(以下分筆前の六七一六番の一という)の一部であつたが、昭和三七年五月一〇日右土地は、同所六七一六番の一、宅地二〇坪なる本件土地と、同所六七一六番の三、宅地五坪五合なる二筆の土地に分筆されたこと、被上告人両名の父田谷栄治は、分筆前の六七一六番の一の土地につき、堅固でない建物の賃借を目的とする期間の定めのない賃借権(賃貸人所有者鈴木昭夫)を有し、かつ、右土地上に、木造藁葺二階建一棟(本件土地部分に存在)(以下乙建物という)、木造板葺二階建本家一棟(現在の六七一六番の三の土地部分に存在)(以下丙建物という)を所有し(いずれも所有権取得登記済)、また、右土地の隣地六七一七番宅地二三坪と該地上に木造板葺二階建本家一棟、附属二階建土蔵一棟(以下甲建物という)を所有し(いずれも所有権取得登記済)ていたが、田谷栄治の死亡(昭和一八年六月一八日)により、被上告人両名の相続するところになつたこと、昭和二〇年八月八日右甲建物に乙、丙建物が合併登記されたところ、合併登記では、建物の所在地番として六七一七番のみが表示され、乙、丙建物の所在地たる六七一六番の一は表示されていないこと、しかし、登記簿の記載から、合併登記にかかる建物は、六七一七番地上の甲建物に、分筆前の六七一六番の一の地上建物として登記されていた乙、丙両建物を合併登記した建物であることを知り得ること、昭和三五年一〇月中旬頃、右合併登記にかかる建物のうち本件土地上にある建物のみ取り毀されたこと、その後、昭和三六年二月二一日、上告人は、所有者鈴木昭夫から、分筆前の六七一六番の一の土地を買受け所有権を取得し、昭和三七年五月一〇日、右土地を前記のとおり分筆したものであること。

以上の事実によれば、上告人が、分筆前の六七一六番の一の土地所有権を取得した当時、被上告人らは、右土地につき、建物所有を目的とする賃借権を有し、かつ、右土地上に前記合併登記ある建物を所有するものである。もつとも、右登記によれば建物の所在地番は六七一七番とのみ表示されているが、右建物は分筆前の六七一六番の一の地上建物として登記されていたものを前記のとおり合併登記したものであることが、登記簿の記載から分明するのであるから、右地番の表示は、被上告人らが建物保護ニ関スル法律一条にいう土地の上に登記した建物を有するものと解するに妨げとなるものではない。

したがつて、被上告人は右賃借権をもつて、分筆前の六七一六番の一の土地所有権者である上告人に対抗することができるし、その後右土地が分筆されて本件土地上には建物が存在しない結果が生じても、被上告人らの賃借権の対抗力に消長を及ぼすものではなく、被上告人らは、本件土地につき、上告人に対し右賃借権を対抗することができる。右と同旨の原審の判断は是認できるし、その他、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の認定にそわない事実を主張し、独自の見解に立つて、原判決を非難するに帰し、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)

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